タイの麺料理-その5-

「パット・シーユー」

この中国を発祥の地とする「炒め麺」がタイ料理のレパートリーの中で最も有名な料理の一つとして登場した理由は簡単です。
その味付けや麺の質感から言って、他の料理の目標となっています。
「パット・シーユー」は腰の強いライス麺を(幅広で平たい「センヤイ」、丸形で細身の「センミイ」のどちらにしてもいいですが)、柔らかくてジューシーな焼豚のスライス、あらかじめ湯煎したパリパリ感のある中国ブロッコリー、それに卵といっしょに強火でサーッと炒めます。この料理は、「シーイウ」等二種類のタイ風醤油で味付けされますが、ときには味付けにオイスターソースが使われることもあります。上手に使えば、中華鍋からいい匂いのスモーキィーな香りが立ち上ること請け合いです。
「パット・シーユー」は、普通は白胡椒を振りかけますが、甘めのスパイシー若しくはピリ辛の薬味を効かせた香辛料を注文すると、好みの薬味をもってきてもらえます。

「パッタイ」

タイの食品の中で一つだけ名前を挙げることができるとするなら、それは「パッタイ」になるでしょう。
しかし、今日私たちが知っている「パッタイ」は比較的新しくできたものです。この料理は1930年代に、発明されたと思われます。(多分、同じような「炒り麺」料理から分かれたかも知れません)
その名前はナショナリスティックな響きがしますが、実際は、中国原産の食材と調理技術(炒める調理方法、豆腐、湯煎したラディッシュ、麺類)とタイ国内原産の素材(タマリンドの果肉、干しエビ、魚醤)がブレンドされてできあがったものです。その基本的な調理方法は、薄く平たくしたライス麺と角切りにした豆腐、湯煎したラディッシュ、干しエビを一緒に炒り上げ、そこに乾燥したチリペッパー、タマリンドの果肉(またはヴィネガー)、砂糖、魚醤、卵を加えて味付けするのがスタンダードになっています。
麺といっしょに揚げて、量が多めになれば、薄いオムレツで周りを包みます。
近頃は、豚の挽き肉や魚介類を使うバージョンも流行で、タイの北部では、この料理に豚の脇腹肉をカリカリに揚げたものを飾り付けることが増えています。
ライス麺がチャンタブリー地方から伝わり素材的にもほとんど同じ素材が使われるのが少し胃に負担になると感じるなら、綠豆の粉を使った春雨のヌードルもいいかも知れません。
「パッタイ」には、絞りやすいように切れ目を入れたライム、モヤシ、ニラの芽、その他の僅かに苦みがあったり辛みがあったりする香辛料、加えて言えば、バナナの花、チドメグサ、スターフルーツなどが通常添えられます。

「パッド・ウン・セン」

「パッド・ウン・セン」は、普通は春雨の乾麺を卵、トマト、豚肉、醤油とともに炒り上げるものです。しかし、料理方法が決まっているわけではありません。と言うのも、中国からの影響を受けた素材、例えばキクラゲ、ネギ、それに酢漬けのガーリックのような手に入りやすいものも使うからです。
「ミー・クロブ」のように、量がそれほど多くない乾麺料理の一つとして、ご飯に添えたおかずの一皿になります。

「ラートナー」

「ラートナー」はタイで最も人気のある「炒り麺」の一つですが、私たちのようにタイ以外で育った者にとって、粘り気のある肉汁ソースは敬遠しがちです。ここのところが、この料理の性格を特徴づけています。
中国南部を発祥の地とする「ラートナー」は、幅広で細身のライス麺を甘めの醤油を絡めてサーッと炒り上げ、その上にタピオカ粉かコーンスターチから作ったものをのせて粘り気をもたせ、醤油と発酵させた大豆を絡めて味付けをします。そして、、柔らか豚肉と中国ブロッコリーを添えます。(変わった形では、卵麺の周りを包みパリパリ感がでるまで深炒りすることもあります。魚介類を加えることは滅多にありません。)

「スキ・ヘーン」

タイの風土に溶け込んだ料理の中で、複雑で込み入った味の美味しい料理の一つとして上げられるのは、この炒め物料理です。この料理はタイ在住の中国人シェフが日本の定番料理を繰り返し取り上げていたことで広まったと言ってよいでしょう。
「ドライスキヤキ」は、春雨のヌードルを包み込むようにして調理する数少ない料理の一つです。今回の場合、ヌードルをタンパク源(卵、豚肉、牛肉、魚介類またはこれらを全て含めたもの)、白菜、ネギ、空心菜、サクサク感のある水辺に生える植物のエンツァイ(英語圏では、朝の栄光またはウォーター・スピナッチと呼ばれています)と一緒にサーッと炒めます。
できあがった料理には、定番として、マイルドで香りのよいつけ汁が添えられます。このつけ汁は、豆腐乳、ビネガー、チリ・ソース、ごま油、ガーリックなど組み合わせた数種類の素材を使っています。